組手の四大要素(+1)Ⅱ

タイミング(早さ)

 

 前回は、『はやさ』には二種類あること。また、そのうちの速度的速さ『スピード』についてご説明しました。

今日はもう一つの『早さ』タイミングについてです。

 

 私がこれに気づいたのは空手を始めて4年が経った頃かと思います。ちょっと気づくのが遅かったのかな…なんて思ったりもします。

 

当時の私は技のスピードを磨くことに集中していました。それなりのスピードを身に着けて少し自信がでてきた頃、どうしても勝てない相手がいたのです。勝てないどころか触れられないような状態…。技のスピードはそれほど差がないはずなのに、必ず相手の技が先に届いてしまうのです。

 

 

 

 

 相手選手は、当時、東京都選手権ベスト4で道場の先輩でした。この先輩に勝つことがあの頃の私にとって一つの目標でした。

(先輩は公認五段を持っていたので、基本も勉強になりました。移動基本の時は必ずその先輩の真後ろの列に入って、自分との違いを探していました。)

 

 『いったいどういうわけか…。なぜいつもこの人の突きが先に自分の顎を捉えるのか…。』いくらチャレンジしても駄目でした。

結局私はこの課題を解決できないまま道場を離れて大学に進学することになるわけですが、大学空手道部では、道場で週に1回稽古をしていた私がインターハイ常連校出身の選手達と一緒に稽古をするのですから、それはそれは大変なことでした。同じ空手とは思えませんでした。

圧倒される日々が続く中、大学生として最初の夏を迎えることになるのですが、私はこの年の夏合宿でタイミングの基本を体感することになったのです。

 

 

 

 

タイミングの基本とは、早さの基本とは、先に出ること。

 

 打ち込み稽古の時のことでした。上級生の刻み突きに対して1.2年生が中段突きで返す内容でした。私以外の1.2年生は上手にカウンターがとれています。しかし私だけが先輩たちの突きをモロに頂戴するのです。先輩たちはまったく容赦しませんし、大学空手にはメンホーがありませんから、突きを頂戴する度に確かな痛みを覚えます。

 

『ああ、これ以上突きをもらったら、たぶん立ってられない…やばい』

そんな危機感と

『ちくしょう。なんでだ。突きを相手に届かせたい!!』という悔しさが入りまじったその時、私の体は一人でに前に進みました。

相手の突きが出てくるのを待たずに自分から間合いに入っていったのです。すると相手の突きは私の右頬横で空を切り、私の体は相手の懐に潜り込み、突きは、確かに相手中段へ到達したのです。

 

あの時の感覚は今でも鮮明に覚えています。それはそれは、もうとても気持ちよくて、最高にスリリングで、組手で初めて快感を覚えた出来事でした。

 

 

 

 

 

体感速度は時速300キロ

 

 空手の突きは、体感速度300キロ超ともいわれています。

考えてもみてください。そんな速度の突きが1メートル以内から自分に向かって飛んでくることを。

 

有名な話しですが、世界で最も速い球を投げる投手はメジャーリーグのチャップマンでしょう。

彼の投げる球は最速で105MPHですから、時速170キロ程度です(凄い…)。

しかしそれでもピッチャーマウンドからバッターボックスまでは18メートルほどの距離があるわけです。

 

くどいようですが、伝統派空手の突きは、1メートル以内から飛んできます。

それを避けられるでしょうか?避けつつ反撃できるでしょうか?

 

答えは簡単。

無理です。

 

(下動画は、もっとも前拳の動きが速かったころの志水選手。あまり良い例がみつからなかったのですが…。)


 

 

そう。無理なのです。

速度に速度で対応するのには限界があります。

だから、タイミング(早度)で対応する必要があるのです。

 

相手の初動が始まる前にこちら側が先に仕掛けるということですね。

経験者しかわからないことかもしれませんが、具体的な例を出すとすれば、相手の突き手が動き出す(初動)前のタイミングで入り込むということです。この瞬間のことを武道の世界では『起こり』と言います。例えば、突きが始まる前に腰が落ちたり、前拳が下がったり、運足があったり、表情が強張ったり、形は様々ですがほんの一瞬起こりがあります。

 

よく文章構成でも起承転結といいますが、空手技の中にも起・承(生)・転・結があって、技が生じる前に起こりがあるわけです。

この『起こり』の時間内にこちら側の技が生じられればベストタイミングと言っても良いでしょう。

タイミングには色々な種類がありますが、この種のことを『先の先(せんのせん)』とも言います。

これこそが『速さ』に対応し得る『早さ』の基本です。

 

速さと早さ。

選手達には、この二つを体得して  ますます空手の面白さを味わってもらいたいと願うのです。

 

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