コロナとの160日を振り返る。

続くコロナとの闘いについて。今回は真面目で長い話しになる。

 

 国内初(帰国者)の新型コロナウィルス陽性者が出たのが116日。まもなく6月が終わろうとしているのだから、あの頃からおおよそ160日が経過したことになる。東京都はいまだに50人ほどの陽性者が連日のように発生しているが、辺りを見渡せば行き交う人々の群れに緊張感は感じられない。どうやら人々は、抗体より先に『慣れ』を獲得したようである。

  

 

我が国の首相が全国一斉休校の要請をしたのが227日、その5日後、実際に多くの学校が休校措置をとった。思い返してみれば、あの頃から私とコロナウィルスの地味で壮絶な闘いが始まったように思える。短くも長い闘いは、いまだ終了していないが、一度立ち止まり、振り返り、記録することが、これから稽古を再開させようとしている指導者たちの参考になれば良いと思う。

2月下旬から3月初め ~早期休館~

 2月下旬頃、私は3月のスケジュールを計画していた。このころ既にメディアはコロナウィルスについて連日大きく報道をしていた。当会としても感染症対策を講ずるために稽古内容や時間を変更してスケジュールを立てた。そのスケジュールを全会員宛に一斉通知をしたその1分後、全国休校に関する速報が入ったのであった。豪勢な料理を前に、テーブルをヒックリ反されたような気分であった。

 

 容赦ないチャブ台返しをお見舞いされた私は、他道場の多くが稽古を引き続き行っている中、比較的早期に休館を決定した。当時、世間の風潮は『春がくれば落ち着く』『湿度が高くなれば落ち着く』というものであった。コロナウィルスの実態がまったく不明だったあの頃、人々は期待を込めて予測を立てたのかもしれない。そしてそれを支持する流れは確かにあった。私もそう思いたかったが、実際に武漢の気候を調べてみると当時はそれほど寒くもなく、むしろ日本より暖かい日もあり、湿度も決して低くなかった。その事実は、この感染症との闘いが想像以上の長期戦になること、そして最終的にはインフルエンザのような共存の仕方が求められる可能性を感じさせられたのだったそう感じたからこそ、長期戦に備えるための期間として3月初めに道場を休館させた。

3月 ~休館中~

 指導者会議を開催した。知りえる限りの他道場と連絡を取り合って情報交換をした。川下指導員とは毎日連絡をとって対策を相談した。それは今日まで続いている。新宿の空手仲間との情報交換はとても役に立った。空手の上部組織にも大会開催などについて問い合わせをしたが『暖かくなれば、その頃には』という感じであった。この頃はまだ緊急事態宣言前であったから、東京都の緊急事態措置相談センター(以下、都相談センター)も存在していなかったと記憶している。しかし地元杉並区では既に危機管理課による危機管理対策本部が設置されていた。ここには行政文書の解釈の仕方などずいぶんと勉強をさせてもらった。この機会に葉梨俊郎会長を始め、様々な学びを与えて頂いた皆様に改めて感謝したい。

 

 エタノールなど消毒剤を購入しておいたのも3月初めの頃であった。マスクは既に店頭から消えていたが除菌グッズはまだ残っていたし、価格も高騰していなかったと思う。それでも潤沢に在庫があるとは言えない状態で、よくわからない『それっぽいもの』も購入した。ここで一つ学びがある。いまとなっては割と知られたことではあるが、アルコールで手指消毒をするのであればエタノール濃度は7080%が理想的である。ところが多く出回っている『それっぽいもの』の多くが濃度60%以下である。これには、アルコールというものが濃度によって酒税法や薬事法、アルコール事業法に関わってくることや、消防法の危険物に指定されるなど複雑な法律が関係している。(と思う)誰でも製造ができるわけでもなく、どこでも売れるわけでもない。そして危険物として適切に取り扱わなければならないシロモノなのだ。詳しいことは法律家にきいてもらうとして、とにかくエタノール濃度は必ずチェックしてから購入した方が良い。これは、60%がダメだと言っているわけではなく、適材適所を実践するために物の特性を知ることが役立つということだ。

4月初旬 ~緊急事態宣言~

 4月に入ると早々に緊急事態宣言が発令された。これによって東京都は休業要請リストを公開し、都相談センターを設置した。

その日、大都市から人が消えた。外食産業、小売り業、エンターテイメント、服飾店舗、あらゆる店がシャッターを閉めた。この頃の新宿は、まるでゴーストタウンのようであった。空手道場も例外ではない。これを機に休館するところがとても多かった。都内においては、ほぼ全ての道場が活動を休止したと理解している。組織の長から『大会中止、通常稽古の停止も含め思い切った判断を』という通知を受けたのもこの頃だったと思う。一方、公式大会や各種講習会についての中止決定はされておらず、組織の混乱をひしひしと感じたことを覚えている。

 

緊急事態宣言が発令されたこの頃、笑うこと、話すこと、向き合うこと、触れることが禁止された。これらは全て、こどもたちの情緒教育において極めて大切なことであった。そんなこどもたちを守る親御さんの気苦労も大変だ。子どもが一日中家に居る。毎日だ。特に小さい子どもが複数いる母たちの苦労は壮絶であっただろう。母たちへ功労賞を送りたい。父たちも頑張った。

 

 この頃は人々が自粛によって身体的健康を保持しながら、反比例して精神衛生上の負荷をかけ始めた時期だったと思う。そういう時期であったからこそ、許されるのであれば稽古を継続する方法で選手と保護者のサポートをしたいと考えた。また、私は夢を追う選手たちの歩みをできる限り止めたくなかった。今でこそ学校が始まったおかげで子どもたちに少しずつ活力が戻ってきているが休校中は本当に可哀そうであった。一部からクレームが出ていたようであるが、公園で飛び回っているチビたちの姿はむしろ私を安心させた。

 

私は自粛を否定するつもりはない。しかしながら必要以上の自粛が人々に甚大な精神的圧力、過剰な恐怖心と無気力を与える可能性があることは覚えていたい。私は、自粛の中にこそ積極性が必要だと考える。 

 

そうして私は、社会全体とは異なる決定をした。

4月、稽古の再開である。

4月中旬 ~休業要請リスト感染防止対策

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 4月、稽古の再開にあたって都相談センター、杉並区危機管理対策本部、高円寺保健センターに相談をした。その当時は回線がとても混線していたので電話がつながるまでに1時間などはザラであった。相談をした内容は大まかに以下2点である。

 

1、休業要請リストの読み方

休業要請リストの中に空手道場という項目は無かった。当然である。そんなマイナーで詳細な業種までリスト入りをさせていたらキリがない。では、我々のようなお習い事はどこに分類されるのか。当時、都相談センターの答えによると『大学・学習塾等』ということであった。この種別は、施設規模によって休業要請対象に分類されるか否かが決まってくる。以下、基準である。

 

・1000平方メートル超の施設に休業要請

・1000平方メートル以下の施設に協力依頼

100平方メートル以下の施設に協力依頼

 

1000平方メートルを超える施設を持つ道場主を私は知らない。(300坪くらい)当然私たちの道場もこれ以下であるから、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法)による休業要請の対象外である。これは多くの道場主にとっても同じであろう。(学校等の施設を利用した稽古が主となる団体については、また別の話しである。)特措法によらず、東京都が独自に出している『協力依頼』というものがあるが、これにおいても100平方メートル以下の小規模施設については『引き続きの営業に問題はない』とされており、適切な感染防止対策の徹底依頼に止まった。

 

『引き続きの営業に問題がない』というのは、大規模な施設で営業を続けることは感染を増長させる懸念があるが、小規模(100平方メートル以下)の施設に関しては問題ない。ということである。これはブログを更新するにあたって改めて都相談センターに確認を取った事実であり、私独自の解釈ではない。つまり、『でっかい施設はダメ。小さい施設は良い』ということになる。

 

2、適切な感染防止対策の徹底

とはいえ、ただ小さい施設ならお咎めなしということではない。施設の大小にかかわらず、もっと根本的な条件がある。それが『適切な感染防止対策の徹底』であった。果たして『適切』とは何なのか。『徹底』とはどの程度のものなのか。そこが問題であった。

この点について都相談センターに加え、杉並区危機管理対策本部と高円寺保健センターと(緊急事態宣言解除後、杉並区の保健予防課感染症係も)相談した結果、私たちが行ってきた対策が以下である。

 

・生徒全体への積極的な休会の勧め(結果、6割強が休会)休会費不要。

・稽古参加人数の制限(最大8名)

・人数制限を行うためのネット予約システムの導入

・一回の稽古時間を90分から60分に変更

※1道場入室時の手指消毒と二段階検温

・気合い、五条訓などの発声を中止

・フィジカルディスタンスの管理(徹底を実践するのは不可能)

・クラス入れ替え時に30分の余白を作る(入れ替え時に選手が混雑しないためにも)

※2余白時間に行う清掃換気作業

・マスクの着用推奨

・自宅を出る前の検温お願い

 

以上の様な実践が、緊急事態宣言下における空手道場の『適切な感染防止の徹底』と認められた。

 

稽古の内容については全てを紹介することはできないが一部分だけでも…。

当然ながら接触を伴う組手は行わなかった。ただし、持ち手が変わる度に消毒作業を挟みつつミットを使った打ち込み稽古は行った。移動基本が中心となる稽古が多くなった。形については、小さい子どもには周囲との距離感を保って演武をするのが困難なため、一人ずつ演武を行う機会を増やした。時間は消耗するが他の選手たちをギャラリー役にするなど、緊張感のある内容になるよう心がけた。できないことの方が圧倒的に多かったが「こんなときだからこそやれること」を探す努力をした。休会中の選手に向けたweb活動もかなり精力的に行ったし、内容もオリジナル性が高かったと自己評価している。これを紹介すると文章量が幾倍かに増幅するのでまた別の機会に。

 

ちなみにこの時期の稽古でとても残念に思ったことは、感染防止対策に気をとられ私自身がストレスフルな状態で指導をしてしまったことと、素晴らしい挨拶や返事をしてくれる選手たちを指摘しなければならなかったことである。

 

 ※1既述ではあるが手指消毒に用いるアルコール濃度は7080%が理想的である。現在当会で使用しているものは77である。検温については第一段階として非接触型を用いる。微熱が確認された場合はワキに挟むタイプで再検温する。この際、体温計は必ずアルコール消毒済の物を用いる。再検温の結果、発熱が認められた場合は原則的に帰宅してもらう。こどもの基礎体温が比較的高いことは考慮して良いと思う。また、非接触型の体温計は精度に難があるため、安物を購入すると役に立たないハズレをひく可能性が高い。ここはケチらない方が良い。対策がただのポーズになってはいけない。

 

 

※2清掃作業はかなり高い水準が求められた。次亜塩素酸ソーダ(ナトリウム)の希釈液(250倍)を使用して8平方メートルほどの道場の床面を清掃する。ドアノブとその周り45cmほど、ドア枠、棚、エアコンのリモコン、扇風機や照明等のスイッチ、外階段の手すり、トイレ、更衣室、ロッカーまで選手が触れる可能性のある場所は全て消毒作業を行った。一日に稽古が3クラスあるのなら、その都度これを行った清掃に慣れてきたころでも6時間の道場滞在の内2時間はこれに費やした30分の清掃作業中は風が抜けるように双方向の窓やドアを開放して換気を行う。稽古中は業務用の大型扇風機と換気扇が稼働しているが近隣への騒音を考慮すると窓を常時空けることが難しいため、20分に一度の換気&小休止を5分間行った。この頃は換気に関する明確な基準がなく、行政も指導に困っているようであった。

6月 ~緊急事態宣言解除後

 525日、政府による緊急事態宣言が国内全てで解除された。これに伴って世間では活動を再開する動きがみられるようになったが、高円寺保健センターや保健予防課感染症係曰く、感染防止対策や活動再開に向けた注意点などについての相談件数はとても少ないらしい。


このことから想像できるのは、サッカー、野球、空手道、その他芸術や文科系など、多くのお習いごとの団体や営利組織が独自の対応策で活動を再開しているということである。スポーツ団体などは上部組織の出したガイドラインに沿って活動を再開したところもあるだろうが、その内容が実践不能な厳しい水準と現場を無視した机上の空論で構成されていることは読むほどにわかる。(明確に否定しておくがJKFのガイドラインを指して言っているわけではない)だから実際はガイドライン通りに活動している組織など存在しないであろう。では、人々は何をもとにして活動再開や予防対策の基準を設けているのだろうか。私はそれが『雰囲気』でないことを祈るばかりである。


 さて、緊急事態宣言が解除されてから一か月が過ぎようとしていた頃(コロナとの闘いが始まって3カ月が経過するころ)改めて高円寺保健センターと保健予防課感染症係と連絡をとり、今時点で許される対策の緩和案を提示してもらった。当会で行われている今現在の対策は以下を反映している。

 

提示された対策緩和案は以下三点。

・トイレ、外階段の清掃は一日の始まりと終わりの二回に減らして良い。

・マスクを着用していれば気合い等の発声はして良い。

8名だった人数制限を10名にしても良い。

 

他にも感染防止対策とは別になるが、7月からは会費の回収を再開すること。また、順次体験入会を案内することに決め、今日に至る。

 

終わりに

 地元杉並の学校もすっかり通常授業に戻り、クラブ活動も始まっている。地域スポーツも普通に活動しているし、近くの保育園では幼児が手を繋いだ二列横隊で散歩に出かけている。私はこれらを『緩んでいる』の一言で断罪するつもりはない。もともとアクティブな自粛を推奨する立場であるからだ。一方で連日増加している都の新規陽性者数も危惧している。正直なところ、もう一度大きな自粛の流れや引き締めが強化されたら…。そう思うと心が折れそうになる。慣れと恐れの間に揺れる東京。細心の注意を払って活動の再開、継続がなされることを願いつつ、引き続き自身への戒めにしたいと思う。

 

 この間、選手たちのために最大限の努力と活動の継続ができたことは、家族からの支えはもちろん複数の方から匿名で頂いたご寄付や会員様からのお心遣いがあったからです。ありがとうございました。また、私のような指導者のもとに大切なお子様を預けてくださる保護者の皆様に心から感謝します。彼らとの関わりが私の励みになります。そして自身の指導力不足を日々痛感しております。本当に申し訳ありません。

  

主に在って皆様の健康と笑顔が引き続き守られますように。

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